仰げば尊し

あおげば とうとし わが師の恩

教(おしえ)の庭にも はや 幾年(いくとせ)

思えば いと疾(と)し この年月(としつき)

今こそ 別れめ、いざさらば

 

互(たがい)にむつみし 日ごろの恩

別るる後(のち)にも やよ 忘るな

身をたて 名をあげ やよ はげめよ

今こそ 別れめ いざさらば

 

朝夕 馴(なれ)にし まなびの窓

螢のともし火 積む白雪

忘るる 間(ま)ぞなき ゆく年月

今こそ 別れめ いざさらば

 

紀元節

雲(くも)にそびゆる 高千穂(たかちほ)の

高根(たかね)おろしに 草も木も

なびき伏しけん 大御世(おおみよ)を

仰(あお)ぐ今日(きょう)こそ 楽(たの)しけれ

 

海原(うなばら)なせる 埴安(はにやす)の

池の面(おも)より なお広き

恵(めぐみ)の波に 浴(あ)みし世(よ)を

仰ぐ今日こそ 楽しけれ

 

天津日嗣(あまつひつぎ)の

千代万代(ちよよろずよ)に 動きなき

基(もとい)定(さだ)めし そのかみを

仰ぐ今日こそ 楽しけれ

 

空に輝(かがや)く 日(ひ)の本(もと)の

万(よろず)の国に たぐいなき

国(くに)の御柱 立てし世を

仰ぐ今日こそ 楽しけれ

 

故郷

兎追ひし かの山

小鮒(こぶな)釣りし かの川

夢は今も めぐりて

忘れがたき 故郷(ふるさと)

 

如何(いか)にいます 父母

恙(つつが)なしや 友がき

雨に風に つけても

思ひ出(い)づる 故郷

 

志(こころざし)を はたして

いつの日にか 帰らん

山は青き 故郷

水は清き 故郷

 

紅葉

秋の夕日に 照る山紅葉

濃いも薄いも 数ある中に

松をいろどる 楓や蔦は

山のふもとの 裾模様

 

渓の流れに 散り浮く紅葉

波にゆられて 離れて寄って

赤や黄色の 色さまざまに

水の上にも 織る錦

 

若葉

鮮やかな 緑よ

明るい 緑よ

鳥居を包み 藁屋を隠し

香る 香る 若葉が 香る

 

さわやかな 緑よ

豊な 緑よ

田畑をうづめ 野山を覆い

そよぐ そよぐ 若葉がそよぐ

 

● 国民学校4年生の唱歌。クラスの10名ほどが

 合唱で,日本放送教会旭川局のスタジオからラジオ

 放送した思い出の唱歌。

 

春の小川

春の小川は さらさら流る

岸のすみれや れんげの花に

にほひめでたく 色うつくしく

咲けよ咲けよと ささやく如く

 

春の小川は さらさら流る

蝦やめだかや 小鮒の群に

今日も一日 ひなたに出でて

遊べ遊べと ささやく如く

 

春の小川は さらさら流る

歌の上手よ いとしき子ども

聲をそろへて 小川の歌を

うたへうたへと ささやく如く

 

虫の声

 あれ松虫が 鳴いている

チンチロ チンチロ チンチロリン

あれ鈴虫も 鳴きだした

リンリン リンリン リーンリン

秋の夜長を 鳴き通す

ああ 面白い 虫の声

 

キリキリキリキリ きりぎりす

ガチャガチャ ガチャガチャ くつわむし

あとから馬おい 追いついて

チョンチョン チョンチョン スイッチョン

秋の夜長を 鳴き通す

ああ 面白い 虫の声

 

 

 

 

茶摘み

夏も近づく八十八夜

野にも山にも若葉が茂る

「あれに見えるは茶摘みぢやないか

あかねだすきに菅(すげ)の笠」

 

日和(ひより)つづきの今日このごろを

心のどかに摘みつつ歌ふ

「摘めよ摘め摘め摘まねばならぬ

摘まにゃ日本(にほん)の茶にならぬ」

 

冬の夜

燈火ちかく 衣縫う母は

春の遊びの楽しさ語る

居並ぶ子どもは指を折りつつ

日数かぞえて喜び勇む

囲炉裏火は とろとろ 外は吹雪

 

囲炉裏の端には 縄なう父が

過ぎしいくさの 手柄を語る

居並ぶ子どもは ねむさ忘れて

耳を傾け こぶしを握る

囲炉裏火は とろとろ 外は吹雪

 

桃太郎

桃太郎さん 桃太郎さん

お腰につけた 黍團子

一つわたしに 下さいな

 

やりませう やりませう

これから鬼の征伐に

ついて行くならやりませう

 

行きませう 行きませう

あなたについて何處までも

家來になって行きませう

 

そりや進め そりや進め

一度に攻めて攻めやぶり

つぶしてしまへ、鬼が島

 

おもしろい おもしろい

のこらず鬼を 攻めふせて

分捕物を えんやらや

 

萬萬歳 萬萬歳

お伴の犬や 猿雉子は

勇んで車を えんやらや

 

朧月夜

菜の花畠に 入日薄れ

見わたす 山の端(は)霞ふかし

春風そよふく 空を見れば

夕月かかりて にほひ淡し

里わの火影(ほかげ)も 森の色も

田中の小路を たどる人も

蛙(かはづ)のなくねも かねの音も

さながら霞める 朧月夜

 

日の丸の旗

白地に赤く 日の丸染めて

ああ美しや 日本の旗は

朝日の昇る 勢見せて

ああ勇ましや 日本の旗は

 

軍神広瀬中佐

轟く砲音(てつおと) 飛び来る弾丸

荒波洗う デッキの上に

闇を貫く 中佐の叫び

杉野はいづこ 杉野は居ずや

船内隈なく 尋ぬる三度

呼べど答えず 探せど見えず

船は次第に 波間に沈み

敵弾いよいよ 辺りに繁し

 

蛍の光

ほたるの光 窓(まど)の雪

書(ふみ)よむ月日 重ねつつ

いつしか年も すぎの戸を

明けてぞ けさは 別れゆく

 

とまるも行くも 限りとて

かたみに思う ちよろずの 

心のはしを 一言(ひとこと)に

さきくとばかり 歌うなり

 

筑紫(つくし)のきわみ みちのおく 

海山(うみやま)とおく へだつとも 

その真心(まごころ)は へだてなく 

ひとつに尽くせ 国のため 

 

千島(ちしま)のおくも 沖縄も

八洲(やしま)のうちの 守りなり

至らんくにに いさおしく 

つとめよ わがせ つつがなく

 

村の鍛冶屋

暫時(しばし)も止まずに槌打つ響

飛び散る火の花 はしる湯玉

鞴(ふゐご)の風さへ 息をもつがず

仕事に精出す 村の鍛冶屋

 

あるじは名高き いつこく老爺(おやぢ)

早起き早寝の 病(やまひ)知らず

鐵より堅しと 誇れる腕に

勝りて堅きは 彼が心

 

平和の打ち物 休まずうちて

日毎に戰ふ 懶惰(らんだ)の敵と 

稼ぐにおひつく 貧乏なくて

名物鍛冶屋は 日日に繁昌

 

あたりに類なき 仕事のほまれ

 

槌うつ響に まして高し 

刀はうたねど 大鎌小鎌

 

馬鍬に作鍬(さくぐは) 鋤よ鉈よ